Log of a Hypocrite

偽善者

小便

とある男性がいる。歳は60前後だろうと思う。くたびれたスーツを着、髪が真っ白になった背の低い男性だ。自分のバイト先に週に一回ぐらい訪れ、大量に買い物をしていく。彼はひどく動きが緩慢で、ニタニタという擬音の似合う表情を常に浮かべている。どこか違和感を感じる人だった。

ここ最近、彼の様子がおかしかった。週を追うごとに衰弱しているような様子を見せていた。そして今日、彼はひどい有様だった。特に服装や髪が乱れているわけでもないが、とてつもない不安定なオーラを発していた。

 

彼は店内で小便を漏らした。自分はレジ打ちなどに追われてその光景は目にしていないが、他の店員がそう言っていた。バカにするでもなく、憐れむでもなく、素直に吃驚してしまった。彼が俯いてブツブツと独り言を言っているところを不審に思った店員が声をかけると彼はひとこと言ったらしい。「おしっこ漏らしちゃった。」

彼はタクシーで帰ると言っていた。自分は店長に、タクシーよりもまずは家族に連絡するのが先ではないかと提案した。しかしその提案は全くナンセンスなものだった。彼に家族はいないらしい……。

 

自分はすぐに孤独が彼をそうさせたのだ、という強い確信を抱いた。

どういう気分なのか?連絡できる親類を持たず、外出先で小便を漏らして「おしっこ漏らしちゃった」としか言えないのは、どういう気分なのか?

彼は孤独と関係なく心の病を抱えていたのかもしれない。だが、その病の進行に孤独が強く関わっていたと推測するのはやぶさかではないだろう。